研究分野 > 肌(皮膚)

乳児の皮膚バリアの謎を解き明かす
乳児の皮膚発達の法則からバイオミメティック技術革命まで - 乳児の皮膚バリア機能の研究

バリア機能が脆弱な乳児の皮膚を健やかに保ち、アレルギーマーチを予防するために。ピジョンのアジア人の乳児を対象とした皮膚バリア機能の研究についてご紹介します。

「最もデリケートなバリア」を守る:ベビースキンケアの科学的ブレークスルー

乳児の皮膚は成人の1/3の薄さしかなく、バリア機能の未熟さから湿疹などの疾患リスクが高いのが現状です。しかし、従来のスキンケア製品開発は成人データや動物実験に依存し、乳児の皮膚が持つ本質的な特性との違いが見過ごされてきました。ピジョンでは、乳児の未熟な皮膚バリア機能を補完する専用製品の開発を目的とし、3つの研究を通じて、基礎メカニズムから応用技術までを網羅する総合ソリューションを構築しました。

  • 研究1:中国の乳児皮膚発達マップを解読–出生から生後6か月までの皮膚バリア機能の動態的傾向と乳児アトピー性皮膚炎
  • 研究2:胎脂に潜む「天然修復コード」–胎脂脂質が皮膚バリア機能を調節する新メカニズム
  • 研究3:ベビースキンケア製品評価の技術革命–iPS細胞で「乳児人工皮膚」(ベビー3D皮膚モデル)を作製

研究1:ポイント

このページでは研究1について説明します。

  • 乳児の肌は生後6か月間で劇的に変化し、特に生後4~6週目に大きな変化がみられました。
  • 生後42日間の頬のTEWLが高かった乳児で、1歳までにアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いことがわかりました。

ピジョンが乳児の皮膚バリア機能の研究で目指していることは

ピジョンでは、アジア人の乳児の皮膚バリアの発達についての研究成果を、乳児の湿疹予防に役立てたいと考えています。

乳児の肌は生まれた直後、母親のお腹の中の環境から乾燥した外界への適応を始めます。この過程で「皮膚バリア機能」と呼ばれる天然の保護層(いわば“生体のバリア”)が徐々に発達していきます。このバリアがうまく形成されないと、アトピー性皮膚炎(乳児湿疹)の発症リスクが高まることが知られています。これまで欧米では研究が進んでいましたが、アジア人の乳児の肌の特徴を大規模に調べたデータは不足していました。
ピジョンでは、アジア人の乳児の湿疹予防に役立てるため、ピジョンのスキンケア研究チームと上海復旦大学附属小児科医院の共同研究により、418人の健康な正期産児を対象として、生後6か月間の皮膚バリア機能の発達について継続的に計測する調査を実施しました。

乳児の皮膚バリア機能の研究からわかったことは

乳児の肌は生後6か月間で劇的に変化し、特に生後4~6週目には「肌の第二の誕生」とも言えるような大きな変化があることがわかりました。

ピジョンでは、4つの肌状態指標経表皮水分蒸散量(TEWL)、角質層水分量(SCH)、皮膚pH値、皮脂量を頬や額など5か所で6か月間測定しました。
その結果、生後6か月間で肌が劇的に変化し、生後4~6週目が最大の変動期であることがわかりました。これは、「肌の第二の誕生」とも言えます。
それぞれの指標の変化は、以下のとおりです。

  • TEWLは生後42日間で急上昇し、その後緩やかに減少しました。
  • 角質水分量は全体的に増加傾向ですが、波がありました。
  • 肌のpH値は生後すぐはほぼ中性(6.7前後)でしたが、約6週間かけて弱酸性(4.38~5.03)に変化しました。
  • 出生時と42日目に男の子の皮脂量は女の子の皮脂量より顕著に高く、いずれも時間とともに減少しました。

TEWLの変化(頬)

結論:乳児の皮膚バリア機能は出生後、非線形な変化を示します。生命初期において、出生後の水分蒸散レベル(TEWL)が高いほど、早期発症型アトピー性皮膚炎の発症リスクが上昇することが示唆されています。

TEWLとアトピー性皮膚炎との関連性:初期段階におけるTEWL値の上昇は、アトピー性皮膚炎発症リスクと顕著な相関関係を示します。この知見は、TEWL値をモニタリングすることにより、乳児期早期においてアトピー性皮膚炎ハイリスク群を特定できる可能性が示唆されました。
乳児スキンケアの示唆:出生後2か月間の皮膚水分蒸散を制御することで、アトピー性皮膚炎の発症リスクを軽減できる可能性が示されました。この知見は、乳児の皮膚ケアと湿疹予防における重要な科学的根拠を提供するものです。

    ※肌状態指標
  • TEWL        :肌の水分保持力を測る「目に見えない汗」の量
  • SCH           :肌表面のうるおい度
  • 皮膚pH値:肌表面の酸性度
  • 皮脂量      :天然の保湿クリームのような分泌物

1歳までのアトピー性皮膚炎リスクの早期識別:新生児の頬のTEWLを予測する意義

生後42日間の頬のTEWLが高かった乳児で、1歳までにアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いことがわかりました。

1歳時のアトピー性皮膚炎(AD;Atopic Dermatitis)の有無と関連のあるパラメータについて検討したところ、出生時と生後42日目の頬のTEWLと関連していることがわかり、出生時に基準値より1単位高いごとにADリスクが26%増加、42日目には基準値を超えるとADリスクが52%増加しました。一方で、皮脂量やpH値との関連は認められず、これは、これまでの常識を覆す発見だといえます。
今回の研究の結果から、出生後42日間は警戒期であり、頬部TEWLモニタリングで高リスク児を早期に識別可能だと考えられました。また、TEWLが上昇している乳児への早期保湿ケアにより、バリア機能の修復とADの発症抑制の可能性が示唆されました。

「中国前向きコホート研究」

アジア人の乳児の皮膚バリア機能の発達と乳児ADの関連について調査するために、中国人の健康な正期産児を対象とした研究を行いました。出生時、生後42日目、および生後6か月時点の肌状態を、経表皮水分蒸散量(TEWL)、角層水分量(SCH)、皮膚pH、皮脂量の4つの指標を用いて評価し、また1歳時のADとの関連性についても検討しました。
生後6か月までに、皮膚バリア機能は非線形的に変化しました。また、出生時および生後42日目の頬のTEWLは、1歳時のADのリスク上昇と有意に関連していました。

図1. 1歳時点のADの有無別にみた生後6か月までのTEWLの変化

  • 図1 .1歳時点のADの有無別にみた生後6か月までのTEWLの変化の画像

対象者:上海のMKNFOAD出生コホート。皮膚又は付属器の先天性疾患のない正期産児418例
研究方法:出生時、生後42日目、生後6か月時点で、頬、額、前腕、腹部、下腿の5か所について、経表皮水分蒸散量(TEWL)、角層水分量(SCH)、皮膚pH、皮脂量を測定した。また、性別による傾向の差異、および1歳時のADとの関連性についても分析を行った。
結果:出生後6か月以内において、TEWLとSCHは全体的に増加傾向を示した一方、皮膚表面pHと皮脂量は減少傾向を示した。性差については、皮脂量のみで有意差が見られた。出生時および生後42日目の頬のTEWLは、1歳時のADのリスク上昇と有意に関連していたが、SCH、皮膚pH、および皮脂量については関連は認められなかった。
結論:中国の正期産児の皮膚バリア機能は、出生後に非線形的に変化した。出生後早期のTEWLが高いほど、早期発症ADのリスクが高いことが示された。

2018年中国TOP学会発表

2021年研究論文発表

参考文献

1) Ye Y, Zhao P, Dou L, et al. Dynamic trends in skin barrier function from birth to age 6 months and infantile atopic dermatitis: a Chinese prospective cohort study. Clin Transl Allergy. 2021;11(5):e12043. doi:10.1002/clt2.12043

論文学会発表

関連記事