研究分野 > 肌(皮膚)
乳児の皮膚バリアの謎を解き明かす
乳児の皮膚発達の法則からバイオミメティック技術革命まで-
iPS細胞技術を用いた乳児人工皮膚の開発
バリア機能が脆弱な乳児の皮膚を健やかに保ち、アレルギーマーチを予防するために。ピジョンによるiPS細胞技術を用いた乳児人工皮膚の開発についてご紹介します。
「最もデリケートなバリア」を守る:ベビースキンケアの科学的ブレークスルー
乳児の皮膚は成人の1/3の薄さしかなく、バリア機能の未熟さから湿疹などの疾患リスクが高いのが現状です。しかし、従来のスキンケア製品開発は成人データや動物実験に依存し、乳児の皮膚が持つ本質的な特性との違いが見過ごされてきました。ピジョンでは、乳児の未熟な皮膚バリア機能を補完する専用製品の開発を目的とし、3つの研究を通じて、基礎メカニズムから応用技術までを網羅する総合ソリューションを構築しました。
研究1:中国の乳児皮膚発達マップを解読–乳児の皮膚バリア機能の研究
研究2:胎脂に潜む「天然修復コード」–胎脂脂質が皮膚バリア機能を調節する新メカニズム
研究3:ベビースキンケア製品評価の技術革命–iPS細胞技術を用いた乳児人工皮膚の開発
研究3:ポイント
このページでは研究3について説明します。
- ピジョンは、iPS細胞に着目し、生体皮膚に近似した角質層を持つ乳児人工皮膚の開発に成功しました。
- ピジョンが開発した乳児人工皮膚により、細胞不足の解消、実験精度の向上、動物実験の代替、個別化医療への応用が期待できます。
ピジョンが乳児人工皮膚の研究で目指していることは
乳児特有の皮膚の構造:乳児の皮膚は、大人とは構造が異なります。そのため、大人向けの製品とは異なるアプローチが必要です。
従来の試験方法の問題点:化粧品や医薬品の開発では、皮膚刺激性試験は不可欠なプロセスです。一方で、従来の動物実験や乳児皮膚テストは、倫理的観点や生理的適応性などの課題がありました。こうした課題は、ベビースキンケア製品の開発にも同じことが言えます。
乳児人工皮膚がもたらす解決策:ピジョンは、ベビースキンケア製品の開発にあたり、これらの課題を乗り越えるために、安全性・有効性・倫理性をすべて満たした乳児人工皮膚の開発を目指しました。これにより、実際の乳児の皮膚に近似した環境で、安全かつ効果的な製品のテストと評価が可能になります。
この乳児人工皮膚の研究開発は、乳児に安心して効果的に使ってもらえるスキンケア製品を開発するための重要な一歩です。ピジョンでは、すでに一部の製品開発において乳児人工皮膚を用いた試験を導入しており、今後はその対象を他の製品ラインナップへも順次拡大していく計画です。
ピジョンが開発した乳児人工皮膚のポイント
開発のポイントは以下の通りです。
- iPS細胞の活用:iPS細胞は、体内のあらゆる細胞に変化する能力を持ち、「若返り細胞」とも言われています。ピジョンは、この細胞を使い、実際の皮膚に近いモデルを人工的に作り出すことを試みました。
- 培養プロセスの最適化:培養方法を改善することで、通常よりも短い24日間という期間で、皮膚のバリア機能を持つ「角質層」を含む乳児人工皮膚の作製に成功しました。(図1A)
- 従来のモデルを上回る性能:この新しい人工皮膚モデルは、以下の点で従来の皮膚モデルよりも優れた特性を示しました。
- 高いバリア機能と代謝活性:保湿因子(AQP3)、バリアタンパク(CLDN1)、ケラチン(KRT10)など、皮膚の機能に関わる重要な遺伝子の発現レベルが、従来のヒト表皮角層細胞NHEK(NHEK=Normal Human Epidermal Keratinocyte cells)由来ヒト表皮モデル(NHEK由来RHE)よりも有意に高いことが判明しました。これは、iPS細胞(iPSC)由来RHEが非常に強い生命力と再生能力を持つことを示しています。(図1B)
- 皮膚刺激への反応:市販の国際標準モデル( SkinEthicTM )と同等の性能を示し、試験された化学物質(ラウリル硫酸ナトリウム(SLS))、Triton X-100(TX-100)、 塩化ベンザルコニウム(BC)など)の刺激性(実際の皮膚が受けるストレス)を正確に判定することできました。
iPS細胞(iPSC)由来角化細胞(iPSC-KC)を利用した乳児皮膚モデルの構築と評価
図1(A).iPS細胞(iPSC)由来RHEおよびRHEの遺伝子発現。(B).HE染色結果並びにフィラグリン・AQP3の発現。(C)免疫蛍光染色結果
ピジョンが開発した乳児人工皮膚による開発環境への影響
ピジョンが開発した乳児人工皮膚は、化粧品や医薬品の研究開発における安全性評価を進化させ、細胞不足の解消などといった開発環境への影響が期待されています。
- 細胞不足の解消:iPS細胞は無限に増殖できるため、細胞提供者の不足や安定供給の課題解決の一助となります。
- 実験精度の向上:同一の遺伝的背景を持つ皮膚モデルを大量に作製できるため、個人差による実験結果のばらつきをなくし、より正確なデータを取得できるようになります。
- 動物実験の代替:化粧品の安全性評価において、動物実験に代わる高精度なテストが可能になります。これにより、「アニマルフリー」な製品開発が加速し、動物愛護の観点からも大きな進歩となります。
- 個別化医療/ケアへの応用:アトピー性皮膚炎などの特定の皮膚疾患を持つ人のiPS細胞から人工皮膚を作製することで、病気のメカニズムを解明したり、その人に合った治療法や薬を開発したりする個別化医療/スキンケア(パーソナライズド)への応用が期待されます。
ピジョン研究員のコメント
iPS人工多能性幹細胞分化技術を乳児人工皮膚モデルの構築に応用した初の研究です。乳児の角質層は成人よりも薄く、皮膚バリア機能は未成熟です。皮膚は水分量が多いですが、乾燥しやすく、また細胞の再生が速いです。私たちが構築した乳児人工皮膚モデル(iPSC-derived RHE)は、これらの乳児皮膚の特徴を非常によくシミュレートできます。この研究の結果は、ベビースキンケア製品の開発に使用され、この研究結果が乳児皮膚のさらなる研究に貢献することを願っています。
公表結果
論文タイトル:Human Induced Pluripotent Stem Cells-Derived Reconstructed
Epidermal SkinModel as an AlternativeModel for Skin Irritation
著者:Tong Xie, Wu Qiao, Tinghan Jia and Ken Kaku
論文のリンク:https://doi.org/10.3390/cosmetics12020075
掲載誌: Cosmetics2025, 12(2), 75;
参考文献
1)https://www.163.com/dy/article/FIIO4I330514D84S.html
2)https://www.episkin.com/skin-irritation
3)Xie, T.; Qiao, W.; Jia, T.; Kaku, K. Human Induced Pluripotent Stem Cells-Derived Reconstructed Epidermal Skin Model as an Alternative Model for Skin Irritation. Cosmetics 2025, 12, 75. https://doi.org/10.3390/cosmetics12020075




